多汗症（たかんしょう）は、必要以上に汗をかいてしまう状態を指し、日常生活に支障をきたすこともある病態です。その原因は大きく分けて「原発性多汗症」と「続発性多汗症」の2つに分類されます。

原発性多汗症は、明確な原因疾患がなく、自律神経の乱れによって引き起こされるものです。交感神経の過剰な働きが汗腺を刺激し、特に手のひら、足の裏、脇の下、顔など局所的に大量の汗をかきます。緊張やストレス、不安などの心理的要因が誘因となることが多く、思春期以降に発症しやすい傾向があります。遺伝的な要素も関与しているとされ、家族内に同様の症状を持つ人がいるケースも珍しくありません。

一方、続発性多汗症は、別の病気や薬剤の影響によって生じるもので、全身的に発汗が見られることが多いです。代表的な原因として、甲状腺機能亢進症（バセドウ病など）、糖尿病、低血糖症、更年期障害、感染症（結核やHIVなど）、悪性腫瘍、神経疾患などがあります。また、一部の抗うつ薬、解熱鎮痛剤、糖尿病薬などが副作用として多汗を引き起こすこともあります。

また、体温調節機能の異常も関与しています。発汗は本来、体温を一定に保つための生理現象ですが、自律神経系に異常があると、体温に関係なく過剰な発汗が起こることがあります。特に自律神経が乱れやすい更年期やストレス過多の状態では、発汗の調節がうまくいかなくなり、多汗症が現れやすくなります。

以上のように、多汗症の原因は多岐にわたるため、適切な治療を行うにはまず、原発性か続発性かを判断し、必要であれば基礎疾患の診断と治療を行うことが重要です。

多汗症に対する漢方治療は効果があるとされています。

• 体質全体を整えるアプローチ
  　漢方は単なる「発汗を止める」治療ではなく、発汗の背景にある「自律神経の乱れ」や「気・血・水のバランスの崩れ」に着目し、体質そのものを整えることを目指します。これにより、根本的な改善が期待できます。
• 多汗症のタイプに応じた使用が可能
  　例えば、体力が中程度以下で疲れやすく水太り傾向がある人には「防已黄耆湯（ぼういおうぎとう）」が適し、ストレスや緊張で汗が出やすいタイプには「柴胡加竜骨牡蛎湯（さいこかりゅうこつぼれいとう）」、更年期の発汗には「加味逍遙散（かみしょうようさん）」など、個々の体質や状態に合わせた治療が可能です。
• 副作用が比較的少ない
  　西洋薬のような強い副作用が少なく、長期間服用しやすい点も利点の一つです。特に慢性的な多汗症では、体調に合わせて継続できる漢方薬が向いている場合があります。
• 精神的要因にも対応
  　漢方には、心身一如という考え方があり、精神的な緊張や不安からくる発汗に対しても対応できる種類が多数存在します。これは、ストレス社会における多汗症に有効な視点です。
• 臨床での使用実績が多い
  　実際の医療現場でも、防已黄耆湯などが多汗症に対して取り扱われることが多く、一定の改善効果が報告されています。患者の自覚症状の緩和や生活の質（QOL）の向上につながるケースも多くあります。

以上の理由から、漢方は多汗症に対して効果的な治療法の一つとして十分に位置付けられています。ただし、自己判断ではなく、漢方に詳しい医師や薬剤師の指導のもとで使用することが望ましいです。

以下に、防己黄耆湯（ぼういおうぎとう）の副作用と服用時の注意点を詳しく解説します

■ 主な副作用

• 消化器症状
  　食欲不振、胃部不快感、悪心（吐き気）、腹痛などが見られることがあります。特に空腹時の服用で症状が出やすいため、症状が現れた場合は医師に相談しましょう。
• 皮膚症状
  　発疹、発赤、かゆみといったアレルギー反応がまれに起こることがあります。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医師の診察を受けてください。
• 肝機能障害
  　全身倦怠感、黄疸（皮膚や白目が黄色くなる）、食欲低下などが見られることがあります。血液検査で肝機能の異常が確認されることもあるため、定期的な検査が推奨される場合があります。
• 間質性肺炎（重篤な副作用）
  　せき、息切れ、発熱などの呼吸器症状が出た場合は注意が必要です。すぐに服用を中止し、医療機関で検査を受けてください。
• 偽アルドステロン症・ミオパチー（甘草の長期服用による副作用）
  　血圧上昇、手足のしびれ・けいれん、浮腫（むくみ）、筋力低下などが見られることがあります。防己黄耆湯には甘草が含まれており、長期服用でカリウムが低下する可能性があります。

■ 服用時の注意点

• 長期連用に注意
  　長期間服用する場合は、副作用のリスク（特に偽アルドステロン症や肝機能障害）を考慮し、定期的に血液検査などで健康状態をチェックすることが推奨されます。
• 他の漢方薬・薬との併用に注意
  　甘草を含む他の漢方薬（例：小柴胡湯、葛根湯など）との併用は、甘草過剰による副作用を引き起こす可能性があるため、医師・薬剤師に確認しましょう。
• 妊娠中・授乳中の使用について
  　妊婦や授乳婦への使用は慎重を要します。安全性が確立されていないため、必ず医師に相談してから服用することが大切です。
• 持病がある人への注意
  　高血圧、腎疾患、肝疾患などを有する人は、服用に際して注意が必要です。これらの疾患がある方は、医師の判断に基づいて使用を決定するべきです。
• 服用中に異常が現れた場合は中止を
  　体に異変を感じた場合は、たとえ軽い症状でも一旦服用を中止し、医療機関に相談してください。重篤な副作用は初期症状が軽いことも多いため、自己判断で放置しないことが重要です。
• 定期的な診察・相談が重要
  　漢方薬も医薬品であるため、「自然だから安全」とは限りません。特に多汗症やむくみなど、慢性的な症状での使用では、定期的に専門家のフォローを受けることが望まれます。

防己黄耆湯は、多汗症やむくみ、肥満傾向などに効果的な漢方薬ですが、上記のように副作用や注意点も存在します。安全に服用するためには、医師や薬剤師と相談しながら、体調や体質に合った用法で使うことが大切です。

■ 医療用漢方薬が市販薬より優れている理由

• 医師による指導に基づく個別対応が可能
  　医療用漢方薬は、診察を通じて患者一人ひとりの体質・症状・生活背景に合わせてもらえます。市販薬はあくまで“誰でも使える一般向け”であるため、症状に合わない漢方を選んでしまうリスクがあります。
• 診断に基づいた「証（しょう）」の見極めがある
  　漢方には「証（しょう）」という概念があり、同じ症状でも体質や状態により使う薬が異なります。医療用では専門知識のある医師が証を見極めたうえで薬を選び、より効果的な治療が期待できます。
• 用量や成分が医学的に調整されている
  　医療用漢方薬は、厚生労働省の厳しい基準をクリアしており、エキス量（有効成分の量）や構成生薬の配合も医学的に最適化されています。一方、市販薬は安全性重視のため成分量が少ない場合もあり、効果が穏やかであることが多いです。
• 保険適用でコストを抑えられる
  　医療機関で取り扱われる医療用漢方薬は、基本的に健康保険が適用され、自己負担が少なくすみます。市販薬は全額自己負担で、長期的に見ると医療用よりも高額になる可能性があります。
• 副作用や相互作用への対応が万全
  　医師の診察を受けることで、併用薬との相互作用や副作用リスクも考慮された安全な服用が行われます。市販薬では、他の薬との併用に関する情報が限られ、自己判断によるリスクが高まります。
• 重症例や複数症状に柔軟に対応できる
  　例えば多汗症に加えて、むくみ・不眠・冷えなど複数の不調がある場合、医療用漢方では複数のお薬を併用・調整するなどの柔軟な対応が可能です。市販薬は単一のため、対応力に限界があります。
• 副作用モニタリングや効果判定ができる
  　医師の定期的なフォローアップにより、副作用の有無や効果の程度を確認し、薬の変更や中止を柔軟に行うことができます。市販薬では自己判断で続けることになり、体調変化に気づきにくくなります。
• 成分の品質・安定性が高い
  　医療用漢方薬は、厳格な品質管理のもとで製造されており、生薬の産地・抽出方法・含有成分の濃度においても信頼性が高いとされています。市販薬では同様の基準が適用されないこともあります。
• 専門家との連携でトータルな治療が可能
  　医療用では、漢方と同時に必要な西洋薬、生活指導、栄養指導などが一体的に提供され、治療効果の最大化が図られます。市販薬ではこのような包括的なケアを受けることができません。

以上のように、医療用漢方薬は、個別性・安全性・効果・コスト面のすべてにおいて、市販漢方薬よりも優れている点が多くあります。漢方治療を本格的に行いたい場合や、慢性症状で悩んでいる場合は、医師の診察のもと医療用漢方を利用するのが最善の選択です。