プロバンサイン（一般名：プロパンテリン臭化物）は、抗コリン薬に分類される内服薬で、多汗症の治療に用いられることがあります。発汗は主に自律神経の一つである副交感神経によってコントロールされており、特にエクリン汗腺（全身に分布する汗腺）はアセチルコリンという神経伝達物質の働きによって汗を分泌します。プロバンサインはこのアセチルコリンの働きをブロックすることで、汗腺への刺激を抑え、結果として発汗量を減少させる効果を発揮します。

多汗症には手のひらや足の裏、脇など特定の部位に過剰な発汗が見られる「局所性多汗症」と、全身に汗をかく「全身性多汗症」がありますが、プロバンサインは全身に作用する薬剤であるため、両方のタイプに対して一定の効果が期待されます。特に精神的な緊張やストレスによって引き起こされる「精神性発汗」に対しても有効で、人前で話す機会があるときや、試験・面接前などの一時的な使用でも効果を発揮することがあります。

効果の発現は比較的早く、服用後数時間以内に発汗が減少することもあります。多くの場合、数日から1週間程度の継続で効果を実感できるとされています。ただし、汗の分泌を抑える作用が全身に及ぶため、口の渇きや便秘、排尿困難、視力のかすみなどの副作用も生じやすく、日常生活に支障をきたすこともあります。そのため、プロバンサインは長期間連続で使用するというよりも、症状の強い時期やイベントの前などに短期間で使用するケースが多いです。

プロバンサインは医師の指導が必要な薬であり、使用には慎重な判断が求められます。適切に使用すれば、多汗による日常生活の不快感や精神的な負担を大きく軽減することができる、有効な治療選択肢のひとつです。

プロバンサインは医師の処方が必要な医療用医薬品のため、一般のドラッグストアなどでは購入できません。

入手方法は主に2つあります。1つ目は、皮膚科や内科などの病院・クリニックを直接受診し、医師の診察を受けたうえで処方してもらう方法です。

多汗症の症状や体質、他の持病などをもとに、適切な用量で処方されます。

2つ目は、スマートフォンやパソコンを使って自宅から診察を受けられるWEB診療を利用する方法です。多汗症に対応している医療機関で、ビデオ通話などを通じて医師と相談し、必要と判断された場合は処方箋が発行されます。薬は自宅に郵送されることが一般的で、忙しくて通院が難しい人にも利用しやすい方法です。

どちらの方法でも、必ず医師の判断が必要です。

■ プロバンサインの主な副作用

• 口の渇き（口渇）
  最も多く見られる副作用で、話しづらさや食事のしにくさを感じることがあります。
• 便秘
  腸の蠕動運動が抑えられることで便秘になることがあります。水分や食物繊維を意識すると予防できます。
• 排尿困難・尿閉
  尿が出にくくなることがあり、特に前立腺肥大のある男性は注意が必要です。
• かすみ目・視力低下
  ピント調整に関わる筋肉が一時的に麻痺することで、視界がぼやけることがあります。車の運転や精密作業には注意。
• 動悸・頻脈
  心拍数が増加することがあり、胸の違和感や息苦しさを感じたら医師に相談を。
• めまい・眠気
  中枢神経への影響でふらつきや眠気が出ることがあります。特に高温多湿の環境下では注意。
• 発疹・かゆみなどのアレルギー反応
  まれに皮膚症状が出ることがあり、悪化するようであればすぐに医師の診察を受けましょう。
• 胃の不快感・食欲不振
  消化器系への影響で軽い胃もたれや食欲低下が起こることがあります。

■ 服用時の注意点

• 決められた用量・用法を守ること
  効果を高めようと自己判断で増量すると、副作用が強く出る恐れがあります。
• 長期間の連用は医師と相談しながら
  慣れてくると効果が薄れることや、副作用の蓄積が起こる可能性もあります。
• 水分補給をしっかり行うこと
  発汗が抑えられることで体温調節が難しくなり、熱中症のリスクが上がります。特に夏場や運動時には注意。
• 運転や機械操作は慎重に
  視力のかすみや眠気がある場合は、車の運転や危険を伴う作業は避けるべきです。
• 他の薬との併用に注意
  抗コリン作用を持つ他の薬（抗アレルギー薬、精神安定剤など）と併用すると副作用が強まる可能性があります。
• 持病がある場合は事前に医師に伝えること
  特に緑内障、前立腺肥大、心疾患、腸閉塞の既往がある人は使用できない、または慎重投与が必要です。
• 妊娠・授乳中の服用は医師と相談を
  胎児や乳児への影響が完全には明らかではないため、医師の判断が不可欠です。

プロバンサインは、多汗症に対して高い効果が期待できる反面、全身的な副作用のリスクもあるため、使用時は医師の指示を守り、体調の変化に敏感になることが重要です。

■ 内服薬（飲み薬）

• オキシブチニン（ポラキスなど）
  抗コリン薬の一種で、プロバンサイン同様に発汗を抑える作用を持つ。特に手掌多汗症や全身性多汗に用いられるが、口渇や便秘などの副作用も同様に出やすい。
• グリコピロニウム臭化物（リターバ）
  近年登場した抗コリン薬で、プロバンサインより選択性が高く、比較的副作用が少ないとされる。手掌・腋窩・顔面など幅広い多汗症に使用される。
• 抗不安薬（ソラナックス、デパスなど）
  精神的な緊張による発汗（精神性多汗症）に対して処方されることがある。不安感や緊張を和らげることで発汗を抑制。
• β遮断薬（インデラルなど）
  興奮時の心拍数上昇や発汗を抑える目的で使われる。発表前や緊張する場面で一時的に使用されることが多い。

■ 外用薬（塗り薬）

• グリコピロニウム塩化物外用液（ラピフォートワイプ）
  日本で承認された顔面多汗症治療の外用薬。1日1回、拭き取るだけで発汗を抑える。副作用が少なく、皮膚刺激が出にくいのが特徴。
• 塩化アルミニウム（パースピレックス、オドレミンなど）
  汗腺を物理的にふさぐ働きがあり、軽度〜中等度の腋窩多汗症に広く使われる。市販薬としても入手可能。皮膚刺激やかぶれに注意。

■ 漢方薬

• 防己黄耆湯（ぼういおうぎとう）
  体力中等度以下で汗かき体質の人に処方される。自律神経のバランスを整え、体質改善による発汗抑制が期待される。
• 柴胡加竜骨牡蛎湯（さいこかりゅうこつぼれいとう）
  精神的な緊張からくる発汗や不安に対応。ストレス性の発汗に効果的な漢方薬の一つ。

■ その他の治療補助薬

• 抗うつ薬（SSRIなど）
  精神的なストレスや不安に伴う発汗に対して処方されることがある。うつ病やパニック障害を合併している場合に選択される。

多汗症の治療は、発汗の原因や部位、重症度、体質に応じて薬の種類を選ぶことが重要です。薬だけでなく、生活習慣や心理的要因も考慮しながら、医師と相談して最適な治療法を選びましょう。